明日香村をチャリで駆け抜ける

飛鳥の地。それは古代史ファンにとっては聖地であり、そうでない人にとっても石舞台古墳や高松塚古墳の色鮮やかな壁画など「あ!コレ教科書で見たことある」的なものがごろごろと存在する場所です。前者である私にとっては、長年まさに『垂涎の地』でした。

 

七月上旬、有休休暇を取得してついに彼の地へ向かうことになりました。

 

まずは奈良のビジネスホテルで一泊し、朝の六時に近鉄に乗り込みます。

 

このアクセスの悪さこそが、古代史の宝庫である明日香村の貴重な建築物などが守られてきたゆえんです。

 

労苦の内には入りません。飛鳥駅の改札をくぐる時、感動の余り足が震えました。改札をくぐると、すぐにあるのはレンタサイクルの受け付けです。たったの数百円で飛鳥の地を自転車で駆け巡ることが出来ます。自転車にまたがり、颯爽と古代ロマンの馥郁たる香りが立ち込める、緑に煙る彼の地へ……! 『鬼の雪隠』や『亀石』といった摩訶不思議な形状かつ不思議な逸話を持つ奇石を巡ります。

 

大きな石に亀の姿が掘られた『亀石』は普段南西を向いているのですが、その亀ちゃんが向いている方向を変えると『大和国が泥の海に沈む』というコワーイお話があります。大人しく眠っていてください、と亀ちゃんに語りかけた後、高松塚古墳へ。チャリで駆けている間、天武・持統天皇陵の前を通り抜けました。実に狭い範囲に、こういった歴史上の人物が眠る尊いお墓がふっと存在する……。それも飛鳥の地ならではの光景です。

 

高松塚古墳で極彩色の壁画を鑑賞した後、予約しておいた古民家カフェへ。

 

飛鳥の地が好きすぎて移住なさったという素敵なご夫婦が丹精なさった極上のカフェ飯を頂きます。「大津派」「草壁派」と歴史上の皇子を昨今のアイドルを語るように語らえるのは飛鳥愛ゆえ。こだわりのコーヒーと一緒に手作りスイーツで締めて、再び自転車にまたがりました。私はカフェのオーナーさんの奥様の推しと対立関係にある皇子である草壁派なので彼が暮らした岡寺を目指したのですが、そこへと至る坂が……異常にスゴいのです。

 

まだ若かったので全身あせだくになりながら必死に自転車をこいで登ると『バス専用道路』という標識が……。

 

落胆するよりも、目の前に広がっていた満開の蓮のピンクに霞む光景が心と目への大ご馳走でした。地元の小学校の生徒さんが育てたそうです。抜けるような空の青に、優しいピンク。脳みそが霞むようなとてもヘヴンリィな光景でした。天国があるなら、こういう風景が永遠に続くんだろうなあと感慨にふけりつつ再びチャリをこぎます。
旅行5
岡寺に着くと、参道は『普通に歩けるけど結構傾斜のスゴイ坂』で『草壁皇子』=守ってあげたい文弱の皇子の図が砕け散りました。厄除けのお寺らしく、来るべき厄年に備えてお参りしておきました。石舞台古墳、橘寺、飛鳥寺などを巡った後、飛鳥坐神社へ。縁結び祈願などのお願いではなく、私の敬愛する作家の折口信夫のご先祖が代々神職を務められたという神社なのです。背筋を伸ばしてお参りしてきました。折口の文才は私に宿りませんでしたが、現在の旦那に出会えたのはこちらの神社の御利益かもしれないです。東京から行ける離島旅行なら、新島村式根島に決まり!

 

滞在時間は八時間ほど。セカンドライフはここで過ごしたいと思いつつ、暮れなずむ緑深い飛鳥の地を後にしました。『(この世にはもういないけど)教科書級のビッグアイドルに会える地』ツアーは終わりましたが、彼の地は、ツラくなるとあの極上ののどかさと共にふっと胸に蘇る、近くて遠い夢の地なのです。